1988年3月 東京大学医学部医学科卒業
1989年6月 公立昭和病院内科レジデント
1990年6月 東京大学医学部附属病院分院第四内科医員
1993年8月 エール大学医学部細胞生物学教室留学
1997年10月 徳島大学医学部附属病院第一内科
1999年5月 徳島大学医学部第一内科 助手
2003年4月 徳島大学大学院生体情報内科学 講師
2006年11月 帝京大学ちば総合医療センター第三内科 講師
2009年1月 帝京大学ちば総合医療センター第三内科 准教授
2013年6月 帝京大学ちば総合医療センター第三内科 教授
2022年1月 帝京大学ちば総合医療センター 病院長
内分泌代謝内科の科長として、一言ご挨拶を申し上げます。
当科では糖尿病や脂質異常症、骨粗鬆症などの代謝性疾患と、下垂体、副腎、甲状腺、副甲状腺、性腺などのさまざまな内分泌疾患の診療を行っております。2023年5月より新型コロナウイルス感染症も5類に移行となりましたが、国内のコロナの患者数はまた増加傾向となっており、まだ不安が払拭されたわけではありません。しかしながら糖尿病教育外来、教育入院などの院内のイベントや、学外においても対面での各種学会・講演会などが次々に復活しつつあり、一般社会の感覚からはやや遅れつつもようやく医療の世界もポストコロナ/ウイズコロナ時代に移行したと言えそうです。
コロナウイルスが与えた影響は、直接的な医療の問題を抜きにしても決して小さくはありません。特に医学教育の中で起こった問題は、学生同士のコミュニケーションの低下、不十分な医学実習、学会参加の減少、基礎研究の中断、国際学会参加や留学機会の減少など枚挙にいとまがありません。このような影響は医学に限りませんが、今後これがツケとなり医療にも返ってくる可能性があることを肝に銘じておく必要があります。
さて、そんな中、我々に今何ができるのでしょうか。時代の変化を敏感に感じ取りながら、目指すべき道を模索しつつ日常診療を粛々と進めていくしかありません。内分泌代謝内科が専門とするホルモンや代謝の変化は常に全身の異常に関わってくるということが特徴です。肺や心臓、肝臓、腎臓など一つの対象臓器を専門とする診療科と異なり、臓器に特化した特殊検査などはありませんし、特定の臓器に対する観血的な治療手技などもほとんどありません。逆に、一つの内分泌臓器の病気は全身に作用するホルモンの異常をもたらし、様々な臓器に広汎な影響を及ぼすことから、当科では「全身を診る」ということを重視しています。学生さんや若い医師の皆さんにも、必ず(診察でも検査でも)全身に目を配ること、一見無関係に思われる全身の症状がホルモンや代謝の異常に関わる可能性を考えること、などを強調しています。
そしてまた、当科では研究をするしないにかかわらず、"リサーチマインド"を大切にしたいと考えています。リサーチマインドとは単に研究の種を見つけることではありません。日々の診療の中でまず疑問を持つことです。そしてその疑問に対してあらゆる角度から検討・解析を加える習慣を持つことなのです。どんなに優れたマニュアルやガイドラインがあったとしても、患者の診療は最終的には"テーラーメード"であり、患者一人一人に最適な方法を見つけなければなりません。それはたとえ世界中の医の知識を全て集めてAI(人工知能)が考えたとしても、簡単に最適解には到達できない領域なのです。どこまでがわかっていて、どこまでがわかっていないのか。どこまでが確実でどこまでが不明瞭なのか。どこまで医学を、どこから患者の気持ちを優先すべきなのか。常に自問自答を続けていくことが、ベストな個々の診療と同時に新たな普遍的事実の発見にもつながっていくのだと考えています。
大分話が大きくなってしまいましたが、最近の診療の中で思うことは、やはり地域連携と患者啓発の重要性です。これほど文明化した?現代にあっても未だに糖尿病を放置し続けて重篤な合併症を発症したり、高血糖による意識障害を起こして初めて診断される患者さんが尽きないことには、いつも驚きと同時に憂いを感じます。もちろんその責任の一端は我々にもあるわけです。患者さんやかかりつけ医の先生方と密に連絡をとり、積極的に情報を発信することにより、患者さんの受診や紹介がタイミング良く行われることを期待しています。当院が位置する市原エリアは決して人が集まってくる都会ではなく、医師や医療スタッフの確保にもしばしば苦労しております。そんな中でも、「明るく居心地の良い」診療科をめざしながら、患者さんには最高の医療を、若い先生方には最高の教育を提供できるように努めていきたいと考えております。そして内分泌代謝内科全員で力を合わせ、色々な意味で活発かつハイレベルの診療科をめざしていきたいと思います。もし内分泌や代謝に興味がある先生がおられましたら、是非気軽にお声がけください。
今後とも何卒、ご指導、ご鞭撻の程よろしく御願い申し上げます。
2023年6月 井上大輔